交通事故における素因減額とは
1 被害者に持病や体質上の弱点がある場合
被害者に事故前から持病や体質上の弱点(素因)があり、それが損害の発生又は拡大に影響した場合、賠償すべき金額を定める際に、当該事由を考慮することができるか、すなわち、「素因減額」されるかという考え方が問題となります。
2 素因減額とは
素因減額(そいんげんがく)とは、被害者の加齢や既往症、体質、心因的な要素などが損害の発生や拡大に寄与しているとき、加害者の負担すべき賠償額を一定の割合で減額するという考え方です。
損害賠償は、損害の公平な分担というのが趣旨であるためこのような考え方が生まれました。
イメージとして、同じ事故でも健康な人なら軽症で済んだのに、被害者が腰に持病を抱えていたため重い後遺障害が残ってしまった場合、損害の一部は被害者側の素因(持病)に起因するため、加害者に全額を負担させるのは公平を欠くという発想です。
3 素因があれば常に素因減額されるわけではない
もっとも、素因があれば、必ず減額されるというわけではありません。
裁判例では「損害の拡大に既往症等が相当程度寄与したか」かどうかが判断基準とされています。
単なる加齢や体格だけでは原則として、素因減額が認められないことも多いです。
4 素因減額の典型例とは
典型例としては、
- ①事故前からの脊椎症、変形性関節症、動脈硬化
- ②強い心因的素因による症状固定の遅れ
などが挙げられます。
素因減額が認められる場合、減額幅は10%から50%程度と事案により幅があります。
素因の内容によってある程度類型化されています。
例えば、事故を契機に統合失調症が顕在化したケースで30%減額が認められた裁判例や、脊椎症を背景にした頚部痛で20%減額された例があります。
5 素因減額を否定するためには
被害者側としては、素因減額の主張を排斥するためには、事故と損害の因果関係を医学的に立証することが重要です。
例えば、素因がなくても同様の結果が発生した、つまり損害の拡大がないことなどを、医師の診断書や医学意見書などで、「事故が主要因である」ことを裏付けることで、不要な減額を避けられます。
























